はじめに
入門書の邦訳、重要な著作の翻訳、入門記事の充実などにみられるように、分析美学への日本語でのアクセス環境も整ってきました*1。分析美学を手がかりに研究している者のひとりとして、いろんなひとが分析美学に触れ、そのおもしろさを味わう機会が増えることを喜ばしく思います。
本稿では、分析美学の入門を終えて、もう少し分析美学を勉強しようという時に、次に読む本を探している方に向けて、わたしがふだん使っている教科書や辞典、雑誌やウェブサイトをまとめました。お役立てください*2。
教科書/辞典
The Routledge Companion to Aesthetics (Routledge Philosophy Companions)
- 作者: Berys Gaut,Dominic Lopes
- 出版社/メーカー: Routledge
- 発売日: 2013/04/04
- メディア: ペーパーバック
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よく使います。基本的な議論をおさえたり、文献を探すときはまずこちらでチェックします。あるいは、いくつか文献を読んでから漏れがないかを確認する際に参照します。
分析美学のみならず、美学全般を学ぶ際にはひじょうに参考になります。いきなり読むとその凝縮具合に驚いてしまうのですが、いくつか論文を読んだ後に帰ってくると、その凝縮具合に感嘆しますし、頭の整理になり、また、問いを立てるヒントにもなります。上のコンパニオンが現行の議論に焦点をあてたものだとすれば、こちらは歴史的な議論の変遷をたどって、現在へと至る過程を教えてくれるものです。
楽しくて新しい論文ばかり読んでしまいがちなのですが、並行して学問の歴史を振り返り、自分の立ち位置を再確認することが大事だと考えます。なぜなら、美学的/哲学的問い、そしてその方法論は、その時代や状況において形作られ、実践されるものであり、わたしたちもまた、そうした特定の美学を行なっていることを歴史はあらためて教えてくれるからです。いま主流なやり方や問いの立て方をいっそう意義あるものにするために、歴史という大きな地図を用いて、それらを俯瞰して眺めることは有益です。
時代における思考からどう距離をとるか、どう自分の問いを形作るか、じぶんはどんな立ち位置にいると自己規定しているのか、これらを明確化する作業を絶えず行うことを通じて、他人にじぶんの研究のおもしろみや意義をうまく伝えられるようになるのだとわたしは考えています。
教科書を手にとって、異なる問いの並べ方や重点の置き方に触れ、取り組んでいる問いからいったん身を引き離して、より広い視野から、ほかの問いとの関連を確かめつつ、もう一度問いに戻るといいことが結構あります(重要な論点に気づいたり、議論の構成を発見したり)。なので、入門の後こそ、もう一度教科書を読むことに価値があると考えています。
雑誌
Philosophy Compass https://onlinelibrary.wiley.com/journal/17479991
「哲学のコンパス」の名前の通り、特定のトピックを一望し、進むべき方向を指し示してくれる優れたサーベイ論文を掲載している頼れる雑誌です。もちろん、著者の特定の問題意識から論争が整理されていることは言うまでもありませんが。
上のコンパニオンにはない細かなトピックについて最新の議論の見取り図と文献リストを提供してくれるという点で、とても役に立つ雑誌です。また、ティーチング/ラーニングガイドも論文を読んでいく際には強い味方になって、なかなかにくい。
The British Journal of Aesthetics | Oxford Academic
Journal of Aesthetics and Art Criticism https://onlinelibrary.wiley.com/journal/15406245
この二つの雑誌を抜きにして現代の分析美学は語れません。イギリスとアメリカの著名な美学雑誌です。BJAとJAACと略されます。個人的には、JAACの論文はバリエーション豊かで読むのが楽しくて、BJAはかなり啓発的で芯に当ててくる論文が多い印象があります。
分析美学に限らず、大陸哲学を援用した議論もみられます。BJAやJAACよりさらに新しいトピックや珍しい論点を扱っている印象です。オープンアクセス。
Proceedings – The European Society for Aesthetics
大陸哲学や分析美学の別を問わず、両者を架橋するような研究も見られる雑誌です。おもしろい研究が多いですね。オープンアクセス。
ウェブサイト
Stanford Encyclopedia of Philosophy
両者ともインターネット上で誰でもアクセスできる哲学百科事典です。スタンフォード哲学百科事典、インターネット哲学百科事典の両者とも、きちんと理解したい時に用いています。
PhilPapers: Online Research in Philosophy
哲学論文の包括的なリンクサイト。著者によるドラフトが公開されていたり、トピックに関する文献のリストが提供されていたり、ひじょうに有益なサイトです。
ナンバユウキ(美学)Twitter: @deinotaton
*1:昨年末にアップロードされた森功次さんの次のリーディングリスト、を参照ください。
*2:執筆にあたっては、先ほどあげた森さんのリーディングリスト、以前まとめられていた以下のリスト、また、「分析美学は加速する」フェアのウェブサイトブックフェア「分析美学は加速する──美と芸術の哲学を駆けめぐるブックマップ最新版」 - 紀伊国屋書店新宿南店(2015年9月8日~10月25日)を参考にしています。本稿であげた著作はすべて以上で触れられているものであり、選書にオリジナリティがあるわけではありません。