Lichtung

ナンバユウキ|美学と批評|Twitter: @deinotaton|批評:lichtung.hateblo.jp

分析美学のQ&A:落語と幻想文学、正しい批評、メタ分析美学

はじめに

本稿は、分析美学の(ひとつの)質問箱にて受け付けた質問に答える記事です。分析美学に関するトピックに興味のある方の参考になれば。

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質問1:落語と幻想文学

Q.1:「友達が落語と幻想文学の共通性をテーマに苦しんでいます。何かヒントはありますでしょうか」(明智小五郎さん)

A.1:おもしろい質問ですね。落語と幻想文学。人生ではじめて口にしたならびです。「共通性をテーマに苦しんで」いるとのこと。わたしは「共通性を見出したい」と理解しました。どちらも詳しくないので一般的なヒントを二点だけ。

まずは、それを問う意義はどんなものか考えてみるとよいです。落語と幻想文学の共通性を見出すと何がうれしいのか。なぜその作業に意味があるのか。友人が彼/彼女自身の家族やあなたを納得させうる説明を組み立てていくなかで、問うべき問いも見つかるかもしれません。

第二に、扱う対象を具体的にするとよいです。落語といっても、幻想文学といっても、ものすごい種類が時代と地域とによってあるでしょうから。いきなりそれらの共通性を探すのは得策ではなさそうです。それら一般の共通性を最終的には問うにせよ、現在焦点をあてる具体的な対象や範囲を絞ってゆくとよいです。

  • まとめ:意義と対象の明示化はいかがですか。(2019/02/14)

質問2:正しい批評

Q. 2:「何でもかんでも関連性のありそうなものを引用した批評(特に映画批評やアニメ批評に多いと思うのですが)は、正しい批評に思えず、気持ち悪さを感じてしまいます。正しい批評はともかくとして、批評の美学のようなものはどう我々の前に姿を現しているのでしょうか」(トッポギさん)

A. 2:舌鋒鋭い質問ですね。わたしは違和感半分おもしろみ半分を感じます。それ自体異様な魅力を放つものもしばしばあるので。とはいえ、「正しい批評」あるいは「より正しい/正しくない批評」の存在を完全に否定する立場をとろうとは現在考えていません。批評それ自体を評価できるような尺度の存在も気になっています。

話を戻して、「批評の美学のようなものはどう我々の前に姿を現しているの」か、という質問には、批評をめぐる分析美学の問いの広がりに触れることで、部分的にせよお答えできるかもしれませんね。

まず、日本語でアクセスできる批評の哲学のすぐれた著作には、一昨年刊行された、ノエル・キャロル『批評について:芸術批評の哲学』森功次訳、勁草書房(2017)があり、特定の「正しい価値づけ」がありうるとするラインであり、「正しい批評」を考える際にはおすすめです。とはいえ、キャロルの主張にも批判は加えられています。

たとえば、ジェームス・グラントによる『批評的想像力』において、キャロルの立場も含めたいくつかの批評の哲学の論者の主張は、批評と呼ばれる言説の一部分のみを拾っているものだとの批判が加えられています。また、同著において、グラントは、批評と隠喩の関わり、優れた批評家の能力とは何か、といった問いも議論しており、ここに批評の妥当性の探求のみではない批評の美学/哲学のひろがりを見出すことができます。

批評について: 芸術批評の哲学

批評について: 芸術批評の哲学

 

The Critical Imagination (Oxford Philosophical Monographs)

というわけで、「批評の美学のようなものはどう我々の前に姿を現しているの」かという問いには、以下のようなお答えになります。

  • まとめ:分析美学における批評の哲学は、「よりよい/より正しい批評とは何か」といった問いを代表に、隠喩やすぐれた批評家とは何か、と言った問いも扱いつつ幅広く議論され(はじめ)ており、そうしたものとして批評の美学が現れている*1。(2019/02/14)

質問3:メタ分析美学

Q.3:分析美学の方法論、認識論、パースペクティブ、学史などメタレベルの問題について、わかりやすく論じられた概説書などご存知ありませんか?(JBさん)

A. 3:盛りだくさんな質問ですね。そういった概説書はいずれも見たことないですわたしが読みたいです。見つけたらぜひ教えてください。

特に、あげられているように、(1)方法論、(2)認識論、(3)学史については、いま分析美学をやる者にとってもあればひじょうに有益であり必要です。ただ、概説書こそありませんが、方法論に関しては散発的にウォルトンステートメントやカリーの論文でみられますし*2、あるいは芸術作品の存在論(特に音楽作品の存在論)に関しては、メタ哲学的議論が行われていますね*3。認識論に関しては、若手のジョン・ロブソンが精力的に行なっていますね*4。学史についても、教科書の章ではありますが、コンパニオンなどで、ネルソン・グッドマン、リチャード・ウォルハイムなどの目立った哲学者は項目があります*5。これらのいずれかをまとめる仕事はかなり重要な仕事になりそうですね*6

  • まとめ:残念がら概説書はありませんが、いくつか議論はあります。(2019/02/14)

ナンバユウキ(美学)Twitter: @deinotaton

*1:ちなみに、わたしは、このあたりの議論をある程度以上探索しているので、批評の美学に関する原稿を書く準備は揃っています。批評の美学/哲学の記事はおまかせください。

*2:Walton, K. 2007. “Aesthetics—what? why? and wherefore?.” The Journal of Aesthetics and Art Criticism, 65 (2), 147-161.; Currie, Gregory, 2013, “On getting out of the armchair to do aesthetics.” In Philosophical Methodology: The Armchair or the Laboratory? M. Haug ed. Routledge. なおこちらの論文は次の有用なまとめ記事があります。

*3:たとえば、Thomasson, A. L. 2006. “Debates about the ontology of art: what are we doing here?.” Philosophy Compass, 1 (3), 245-255.; Dodd, J. 2008. “Musical Works: Ontology and Meta‐Ontology.” Philosophy Compass, 3 (6), 1113-1134.

*4:たとえば、Robson, J. 2014. “A social epistemology of aesthetics: belief polarization, echo chambers and aesthetic judgement.” Synthese, 191 (11), 2513-28.

*5:Gaut, B., & Lopes, D. Eds. 2013. The Routledge companion to aesthetics. Routledge.

*6:ちなみに、ナンバは(1)分析美学の方法論を調査開始しています。長いスパンでお楽しみに。