はじめに
哲学研究を趣味にするのは悪くない選択である。哲学は楽しい。いろいろな新しいことを勉強したり、古いことを見直したりして、人生にこんな謎があったのか、と気づき、その謎を味わったりできる。
哲学研究は大学の先生にならなければできないのか。そういうわけでもない。図書館に行けばいろいろな哲学の本があろう。書店に行って最近の哲学の本を眺めたりするのもよい。
今回私がおすすめするのは、哲学の論文を読む、これである。とはいえ、論文は高い。日本の場合、多くの学会誌はオンラインで無料で公開されている。素晴らしい仕組みである。ぜひみんなで応援しよう。
だが、とりわけ日本以外の論文雑誌の場合、1本4000円くらいすることもある。たいへんだ。サブスクリプションに入ることもできるが、安くはない。
だが、朗報がある。少なくない論文はオープンアクセスとなっている。これは著者たちがお金を払うことでみんなにタダで読んで貰えるようにしている心意気である(とはいえ、その心意気を発揮するためには研究費がないといけなかったりするが)。
ぜひともその心意気に応えようではないか。
どうやって読むのか
哲学の論文雑誌というものがある。これは、『POPYE』とか『VERY』とか『暮らしの手帖』といった雑誌とは趣が異なる。いろいろな論文がまとまって秋号とかが出ているくらいのものである。ときおり特集があったりするが、いわゆる雑誌のような感じでは全然ない。
哲学の雑誌は無数にある。けれど、いい雑誌というものがある(らしい)。いい雑誌に載っているといい論文……というわけでもないので、まあ、参考程度にして欲しい。
いい雑誌のリストはたとえばこんな感じ。
- Philosophical Review
- Mind
- Nous
- Philosophy and Phenomenological Research
あんまり品がいいとは思えないが、雑誌ランキングというものがあり、一つの参考にはなる。
Journal Rankings on Philosophy
ここで挙げられている哲学雑誌は、まあ、たいてい現代の(分析系)哲学者は知っている有名どころだ。『少年ジャンプ』だとか『サンデー』だとか『アフタヌーン』とかがリストアップしてある。
私のお気に入りは、Philosophy and Phenomenological Research である。
アクセスしてみよう。
https://onlinelibrary.wiley.com/toc/19331592/2024/109/2
こんな画面が出てくる。最新号へのリンクを張っておいた。
Open Access と書いてあるものがタダで読める論文である。
おもしろそうな論文を見つけて読んでみよう。たとえば、下にスクロールしていくと……。
Why prevent human extinction? なる論文を発見する。いかにもおもしろそうだ。タイトルをクリックすると、
論文が読める! 素晴らしい。読んで楽しもう。
英語が読めなくても、DeepLだとかChatGPTに翻訳してもらえばなんとなくは楽しめる。では、翻訳してみてもらう。翻訳ママ貼り付ける。
私たちの多くは、人類の絶滅は非常に悪いことであり、それを防ぐ道徳的理由があると考えている。 しかし、何が人類絶滅をそれほど悪いものにするのか、つまり何が道徳的理由を根拠づけるのかについては意見が分かれている。 最近、何人かの理論家は、私たちが絶滅を防ごうとする理由は、未来の生命の福祉という価値からだけでなく、人類の存在そのものに関するある種の付加的価値(例えば、人類の「最終的な」価値、あるいは人類そのものの価値)からも生じていると主張している。 本稿では、こうした「付加的価値」観に反論する。 当初は魅力的であったにもかかわらず、このような見方は必然的に、彼らが訴える付加的価値と将来の生命の福祉の価値との間の対立に直面することになる。 そして、こうした対立をもっともらしく解決することはできない。 これとは対照的に、絶滅を防止する理由が将来の生命の福利の価値だけに由来するという対立的な見解では、このような対立は生じない。 このことは、付加的価値観の方が当初はより妥当性が高いにもかかわらず、後者の考え方を好む理由になると結論づける。
TIPSとしては、専門用語はちゃんと訳せないので、「付加的価値」ってホントに訳としてあってる? と眉に唾をつけながら読むとよい。additional values と書いてある。この単語を英語で調べたりして哲学における意味を理解したりするとよりちゃんと分かるようになる。
要旨をみると、「絶滅を防止する理由が将来の生命の福利の価値だけに由来する」という立場の方が筋がいいといえる理由がありそう、ということを論じるらしい。反出生主義だとかに関心のある人にはたいへんおもしろそうだ。
おわりに
哲学雑誌は哲学の分野ごとに無数にある。生物学の哲学、論理学の哲学、芸術の哲学、歴史学の哲学……。あなたの好きな研究したい分野の論文を探すといくらでも楽しめるだろう。趣味としての哲学研究もよいものだと思う。