Lichtung

ナンバユウキ|美学と批評|Twitter: @deinotaton|批評:lichtung.hateblo.jp

2019年のおしごとまとめ

こんにちは。分析美学と批評の研究と実践を行なっております難波優輝です*1。2019年のおしごとを執筆したものを中心に振り返ります。おもしろそうなものがあればぜひチェックしていただければハッピーです*2

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おしゃれとペルソナの哲学

vanitas No. 006

おしゃれの美学––––パフォーマンスとスタイル

蘆田裕史・水野大二郎責任編集、ファッションの批評誌『vanitas No.006』(アダチプレス、2019年)所収。

ファッション研究の典型的な主題は、ファッションデザインナーやものとしての衣服、あるいは流行としてのファッション現象に焦点があてられますが、ファッションすること=「おしゃれすること」は哲学や美学の観点からは意外と語られていません。そこで、「おしゃれすること」をファッション研究における「装い」、アーヴィング・ゴフマンの自己呈示の概念、そして、分析美学におけるパフォーマンスとスタイルの議論から、パフォーマンスとしてのおしゃれ、自己表現としてのおしゃれを捉えるための枠組みをつくりました。おしゃれをするひと、語るひと、あるいはおしゃれを批判するひとに向けたツールキットとして、さらに、現実のおしゃれだけではなく、アバターをまとうことを考えるためのヒントとして役立てていただければうれしいです。

ヱクリヲ vol.10 特集I 一〇年代ポピュラー文化――「作者」と「キャラクター」のはざまで 特集II A24 インディペンデント映画スタジオの最先端

バーチャルYouTuberエンゲージメントの美学––––配信のシステムとデザイン

『ヱクリヲ』Vol.10、一〇年代ポピュラー文化/A24特集(ヱクリヲ、2019年)所収。

分析美学を手がかりに、バーチャルYouTuberとそれをみる鑑賞者との情動的な関わり、すなわち「エンゲージメント」のシステムとデザインを明らかにします。バーチャルYouTuberについて批評や論考を書きたいが、いったいどんな文献があるのかわからないとお悩みの方にもおすすめです。メディア論から分析美学まで、文献表も充実しております。個人的には「配信の美学」の構想に向けた第一歩として、バーチャルYouTuberにとどまらず、実況者やゲーム実況研究の土台のひとつをつくれたように思います。

バーチャルYouTuberの三つの壊れ––––設定、身体、画像

ヱクリヲweb(2019年)所収。

作家の名倉編によるグレアム・ハーマンの四方対象の枠組みを用いたバーチャルYouTuberの構造と魅力の分析、そして作曲家、批評家の灰街令の批評を手がかりに、バーチャルYouTuberの独自性に関わる「三つの壊れ」について分析しました。バーチャルYouTuberの三層理論の発展とその外部での広がりへと進もうとする論考です。バーチャルYouTuber研究と哲学研究の交差をおたのしみください。

アニメーションと音楽の美学

アニメーションの美学––––原形質性から多能性へ

『アニクリ』vol.6s(アニメクリティーク刊行会、2019年)

セルゲイ・エイゼンシュテインによって提示され、アニメーション研究者の土居伸彰によって議論された、アニメーションの特質としての「原形質性」を分析美学の道具立てから再考し「多能性」概念を提示します。原形質性を、多能性、すなわち、アニメーションにおける素材、メディウム、そして内容のレベルにおける様々な自由さとして捉え、描写の哲学における因果性、ネルソン・グッドマン的記号システム論、そしてノエル・キャロルの隠喩の概念からアニメーションならではの特徴を明らかにしています。

『人形のおどり』『惡の華』『リズと青い鳥』『この世界の片隅で』『新世紀エヴァンゲリオン』『かぐや様は告らせたい』の「チカダンス」、『ルクソーJr.』などを取り上げ、概念のインフラストラクチャづくりを目指しました。ここがアニメーションの美学研究のひとつの出発点となることを期待します。

作画崩壊の美学––––崩れとミスピクチャ/ミスの美学––––ミスワーク、作画崩壊、バグ/約束のない壊れ––––「キャラジェクト」の向こうで

『アニクリ』vol.7s(アニメクリティーク刊行会、2019年)

作画崩壊とは何か、その芸術的価値と美的価値とは何か、そして、失敗した作品がもつ美的価値とは何か、さいごに、灰街令の「キャラジェクト論」をキャラクタの存在のあり方から読み直す論考です。アニメーションに潜むもつれの謎が気になる方へ。

アニメーションにとって音/楽とは何か––––一致と残余の音響記号論

『アニクリ』vol. 3.5(アニメクリティーク刊行会、2019年)

アニメーションの音響と画像/映像の内容の響き合いを一致と残余をキーワードに分析しています。アニメーションの美学プロジェクト第2弾です。

向こうのないわたし(たち)––––大内りえ子の思索するアニメーション

短編.jp(2019年)

短編アニメーション作家大内りえ子の諸作品をキャラクタとわたしたちのあり方を思索するアニメーションと解釈し、その思考に応答する批評です。短編/アニメーションのみならず、キャラクタとペルソナの哲学に関心のある方に向けて。

ユリイカ 2019年12月号 特集=Vaporwave ―Oneohtrix Point Never、Vektroidから猫 シ Corp.、ESPRIT 空想、2814まで…WEBを回遊する音楽―

Future Funkとアニメーション––––ふたつの夢の分析

ユリイカ』特集=Vaporwave(青土社、2019年)所収。

サブジャンルFuture Funkに焦点をあて、ジャンルを分析し、古典的なVaporwaveとのちがいを論じ、作品の鑑賞経験を映像と音楽の意味の〈響き合い〉から分析します。図と怒濤の文献リストもチャームポイント。渋めな論考で気に入っています。

批評の哲学とその実践

フィルカル Vol. 4, No. 3―分析哲学と文化をつなぐ―

批評の新しい地図––––目的、理由、推論

『フィルカル』(ミュー、2019年)所収。

批評とはいったいどんな営みなのか。批評の哲学における理由と推論をめぐる議論を手がかりに、批評という多様で複雑な営みを理解し実践するための地図づくりを目指しました。批評を考える/書く/読むひとに向けて。

大絶滅恐竜タイムウォーズ (ハヤカワ文庫JA)

キャラクタの前で

草野原々『大絶滅恐竜タイムウォーズ』(早川書房、2019年)。

『最後にして最初のアイドル』(早川書房、2018年)で鮮烈なデビューを飾った若手SF作家のなかで強烈な磁場を生み出している草野原々さんの長編第一作『大進化どうぶつデスゲーム』の続刊『大絶滅恐竜タイムウォーズ』の解説です。同時に、草野さんのプロットや草稿をいっしょにお読みしてご相談を手伝う「ノベルドラマトゥルク」として制作を微力ながらお手伝いいたしました。個人的に、草野さんとの会話はたのしくて、いったいつぎの打ち合わせではどんな物語を喋ってくれるのだろう、とわくわくし続けた日々でした。

ここで、さいごまで読んでいただいた方におまけとして、採用することにはいたらなかった解説の草稿を少しお見せします。

『大絶滅恐竜タイムウォーズ』は、時間と空間を横断/切断しながら、語り手を変えながら、物語が異質なものに変わり、キャラクタが破壊されたさきを探ろうとする、物語を破壊しながら、原初の物語の力を思い出させる作品だ。
一方で、本作は物語に読者が期待するたのしみを裏切る––––キャラクタへの「感情移入」のたのしみ、キャラクタの関係性に「エモさ」を感じることに対するメタ的視点の導入、物語への「没入」の快楽を堰き止めるような、くせのあるいくつもの語り手の登場––––。
他方で、本作は、読み手が知っていたはずの、しかし、忘れかけていた「物語の根源的なよろこび」を突き詰める。物語は、まず、誰かによって語られるものなのだ。わたしたちの祖先が焚き火の周りで聞いた神話、旅情の寂寥を慰撫するように、旅籠で耳を傾けた吟遊詩人の語り、そして、親たちが語りかけるお話たち––––。そこには、語り手が紡ぎ出す独特なリズム、荒唐無稽な出来事をつなぐふしぎな理由が次々とつむがれ、説得されるたのしみがある。
このお話は、一方で、物語を破壊する。それにより、読み手に物語への反省的態度を要求する。他方で、このお話は、物語の祖先へと回帰する。それにより、語りを聞く原初的なよろこびをもたらすのだ。
本作は、これまでの草野作品の様々な要素––––メタフィクション、進化、キャラクタ、関係性、理由、心、生と死––––が流れ込み、さらにもう一段、物語の力とゆたかな物語の実験が組み込まれ、うみだされた作品だ。『大絶滅恐竜タイムウォーズ』は、原々文学の最前線だ。

おわりに

2019年は幸運にも様々な方々からお声がけいただき、文章を書く機会をいただけました。のみならず、研究者の方々、周囲の友人の力を借りながら大過なく研究活動を進めることができました。みなさまに感謝いたします。さいごになってしまいましたが、どこかでわたしの文章を読んでいただいたあなたにも、こっそりありがとうとお伝えしたいです。

みなさま、来年もどうぞよろしくお願いいたします。

よいお年を。

難波優輝(分析美学と批評)

*1:現在神戸大学人文学研究科の博士課程前期課程に所属しております。

*2:松永さんのこの記事を真似ました。宣伝はだいじ。