Lichtung

ナンバユウキ|美学と批評|Twitter: @deinotaton|批評:lichtung.hateblo.jp

2018年6月に読んだもの:セックスとジェンダー、社会存在論、言論の自由、そしてナショナリズム

ふりかえり

お仕事といくつか作業があったので、読んだものは少ないです*1スタンフォード哲学百科事典祭り。

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6月30日:M. Mikkola「セックスとジェンダーフェミニストの視点から」スタンフォード哲学百科事典(2017)

まとめ

⑴概念の変遷、⑵ジェンダーの社会的構成、⑶両概念の差異、⑷ジェンダー存在論の議論を概観しつつ、セックス/ジェンダー概念の問題とその有用性を整理する。

生物学的/社会的な女/男区分とおおむね対応するセックス/ジェンダー区分は、素朴な生物学的決定論への反駁の根拠となるが、セックス/ジェンダーの定義は規範性を帯び、それに含まれないひとを排除する点、生物学的身体もつねに社会的意味を含意する点から、その有用性に疑問が付されてきた。両者の区分を認めても、ジェンダー存在論的地位については、唯名論実在論的な立場のあいだで議論が行われており、細部での見解の一致はみられず、上記のような批判もあるが、実践におけるジェンダーアイデンティティの結びつきを扱えることから、両概念の区別は依然として有用であるとされる。

資料

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ひとこと

ポルノグラフィ研究も進めているので、セックスとジェンダー区分は押さえておきたいと思い読みました。いくつか読むべきあたらしい文献が見つけられたのでよかった。

リンク

Mikkola, Mari, "Feminist Perspectives on Sex and Gender", The Stanford Encyclopedia of Philosophy (Winter 2017 Edition), Edward N. Zalta (ed.), URL = https://plato.stanford.edu/archives/win2017/entries/feminism-gender/.

6月28日:B. Epstein「社会存在論スタンフォード哲学百科事典(2018)

まとめ

貨幣、法、人種、芸術などの社会的存在者を「なにが/いかにして」構成するのかを問う社会存在論について、⑴歴史、⑵一般的問題、⑶構成物の性質、⑷社会カテゴリと社会種の設定、⑸主要なトピックの五つをとりあげ概観する。 これまでの議論をコンパクトにまとめているので、人工物の存在論の概観を得られ、また、そのつど文献を指示してくれているので、興味のある領域への道を示してくれている。範囲のひろさゆえにぜんたいの分量は多いが、役に立つ。

ひとこと

長く、トピックが多岐にわたったのでややハードだった。ただ、芸術作品の存在論ジェンダー存在論を社会的構成の議論と関係する社会存在論という視野から俯瞰することができるようになったのはよい。分析的な存在論一般がそうであるように、社会存在論の議論もあまりに抽象的にみえる。けれども、分析的な存在論一般がそうであるように、こうした議論が、具体的な議論、社会的実践や批判において、じぶんたちがなにを行なっているのかを再考するための大きな見取り図を与えてくれたりもする。前半の歴史の部分だけでもちょっと読むと整理がされてよい感じ。

リンク

Epstein, Brian, "Social Ontology", The Stanford Encyclopedia of Philosophy (Summer 2018 Edition), Edward N. Zalta (ed.), URL = https://plato.stanford.edu/archives/sum2018/entries/social-ontology/.

6月16日:ファン・ミル「言論の自由スタンフォード哲学百科事典(2017)

まとめ

危害、不快原理に基づいた/民主主義的価値との比較においてなされる言論の自由の部分的な制限の議論の整理。とくにヘイトスピーチおよびポルノグラフィ規制がいかなる理由によって/どこまで正当化しうるのかが問われる。 

ひとこと

危害原理と不快原理とを具体例から理解できたのがよいです。あと、副次的に、倫理学的議論に関して原理をもちだす動機も理解できたのがうれしい。近年に刊行された著作もおおくふれられており、入り口をたくさん知ることができる。

リンク

van Mill, David, "Freedom of Speech", The Stanford Encyclopedia of Philosophy (Summer 2018 Edition), Edward N. Zalta (ed.), URL = https://plato.stanford.edu/archives/sum2018/entries/freedom-speech/.

6月14日:A. D. スミス、庄司信訳『ナショナリズムとは何か』

まとめ

隣接する概念の定義の整理からはじまり、競合する諸々のパラダイムの例示に加え、研究史を振り返りつつ、各説の動機や長所を説明している。読書案内も充実していて、この分野のよい見通しを与えてくれる。

ひとこと

すっきりとした整理と、充実した文献表によって、この分野を鳥瞰できたのがよい。とくに「日常のナショナリズム」研究の存在を知り、アイコンや旗、音楽、イベントなど、ナショナリズムを象徴的に担いうるものが分析の対象になっていると知り、じぶんの研究にもつなげられそうで興味ぶかい。いい本。

あとがき

作業のあいまに、おもしろくきまじめな文章を読むと、すこし涸れていたちからがふたたび湧いてきました。6月もすてきな文章と思考に出会いました。7月もすてきなことにであえればいいと思います。

ナンバユウキ

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