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難波優輝|美学と批評|Twitter: @deinotaton|批評:lichtung.hateblo.jp

現代存在論講義I ファンダメンタルズ 倉田剛 まとめノート その5

第四講義 性質に関する実在論現代存在論講義I ファンダメンタルズ 倉田剛 まとめノート その4 - Lichtung

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第五講義 唯名論への応答

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1クラス唯名論

1.1クラスによる説明

クラス唯名論(Class Nominalism)
◾️クラス唯名論(CN)
(CN)aはFである⇔aはFのクラスのメンバーである
1.2 例化されていない性質および共外延的性質の問題
共外延的な性質(coexstensive properties)の事例
肝臓をもつという性質と腎臓を持つという性質の外延(extension)は等しい(「F性の外延」とは、Fであるものすべてからなるクラスである)。よって、肝臓をもつ性と腎臓をもつ性は同一の性質になってしまう。
・これに対し、クラス唯名論者は可能世界の理論的枠組み、そのうちの可能的個体(possible individuals)に訴えることで対処する。すなわち、現実世界とは異なる少なくとも一つの可能世界において、肝臓をもつが腎臓はもたない生物が存在することになる。性質の外延の範囲をすべての可能世界に拡張すれば、肝臓をもつ性と腎臓をもつ性の外延は二つの異なるクラスになる。

1.3 クラスの同一性基準と性質

性質の同一性は、それを例化する実例(インスタンス)の同一性によっては決定されない

1.4 すべてのクラスは性質に対応するのか

クラスは任意に作ることができてしまう。ゆえにすべてのクラスは性質に対応しない。

2 類似性唯名論

2.1 類似性の哲学

類似性唯名論(Resemblance Nominalism)とは、ある対象がFであるという事実、および数的に異なる二つの対象が同じFタイプであるという事実を、類似性という基礎概念に訴えて説明する立場。代表格はプライス(H. Price)。『思惟することと経験』(1953)。
・普遍者の哲学↔︎本源的な類似性の哲学(Philosophy of Ultimate Resembrance):類似性が性質(関係)を規定する。
・典型例(exemplars)への類似性(resemblance toward…)
◾️類似性唯名論(RN)
(RN)aはFである⇔aはFの典型例に類似している
・典型例は複数あってよいが、aは各々の典型例に似ている必要がある。
・認知意味論におけるプロトタイプとの親和性。→G. Lakoff
ヴィトゲンシュタイン家族的類似性(family resemblances)を参照

2.2 類似性唯名論への反論

1.主観的あるいは相対的な観点の説明の中に持ち込んでしまう。
2.aはどの点において典型例に似ているのかという問題。
3.白いものが1つしか存在しない場合。
4.「ある対象がFのクラスに属するがゆえにF性をもつ」という説明より、むしろ「ある対象がF性をもつがゆえにFのクラスに属する」という説明の方がより自然。

3 述語唯名論

3.1 正統派の唯名論

述語唯名論(Predicate Nominalism):普遍者をたんなる名に過ぎないと捉える立場という、唯名論の原義にもっとも近い立場。
◾️述語唯名論(PN)
(PN)aはFである⇔述語"F"はaに適合する(apply to)
言語表現と対象との関係の問題とする。
・適合関係は原始概念とされる。
・述語唯名論者にとって、aはFであるという事実が成り立つのは、Fのクラスがaをメンバーとするからではなく、Fの典型例がaに似ているからでもなく、いわんやFがaによって例化されるからでもなく、単に"F"という述語がaに適合するからである。

3.2 述語唯名論への反論

・客観性の要請を満たさない。
・説明の順序が逆ではないか。

4 トロープ唯名論

4.1 実在論の代替理論としてのトロープ理論

トロープ(trope)とは個別的性質の現代的名称。トロープ理論(trope theory)は現代存在論のうちで確固たる位置を占めている。→出発点はウィリアムズ(D. C. Williams)
◾️トロープ唯名論1(TN1)
(TN1)aはFである⇔aはFトロープをもつ
(1)aとbはともに赤い。
(1*)aの赤さトロープとbの赤さトロープはよく似ている。
・類似性唯名論と異なるのは、(1)を説明する際に、aの赤さトロープとbの赤さトロープという二つの数的に区別される性質に言及する点である。

4.2 トロープの主要な特性とそれにもとづく「構築」

(a)個別性:トロープは時空的位置をもつ
(b)単純性:リアルな構成部分をもたない↔︎事態(state of affairs):ある対象がある性質を持つこと、または複数の対象がある関係に立つことを指す。成立している事態は事実(fact)。
(c)抽象性:共生(compresence)複数のトロープが同時に一つの場所に位置しうる。また、トロープは認識論的なもので、心の抽象作用によってリンゴの赤さトロープは他のトロープから切り離される。
単一カテゴリー存在論(one-category ontology):個別的実体はトロープの和(the sum of tropes)として構築される。こうした個別的実体の捉え方は束理論(bundle theory)を含意する。私たちの身近にある具体的個別者はトロープの束に過ぎないと言う見解を含んでいる。
・普遍的性質はトロープのクラスによって構築される。

4.3 トロープ唯名論のテーゼとそれへの反論

◾️トロープ唯名論2(TN2)
(TN2)aはFである⇔Fトロープ-1は、Fトロープたちの類似性のクラスのメンバーであり、かつそれは共生するトロープの和(束)としてのaの部分である
・しばしばクラス唯名論と類似唯名論極端な唯名論(extreme nominalism)と言われるのに対し、トロープ唯名論穏健な唯名論(moderate nominalism)と言われる。
・束理論への反論、トロープの存在そのものへの疑念、トロープたちのあいだの類似性。
アームストロングはトロープ唯名論者を個別主義者(Particularists)と呼ぶ。

4.4 実在論との共存

個別的性質(トロープ)が普遍的性質を例化している。と考えることができる。